Mar 07

またまた確定申告シリーズ…。この時期になると毎年何かしらモヤモヤする新しい疑問が生じてその都度あれこれ調べ物をするハメになるのだが、今年もその例に漏れなかった。Executive Summaryとしては、「日本で株式等を持ってる人は租税条約の届け出を出さないと2014年分以降の配当には二重課税される」。

日本で購入した株式などを保有したままアメリカの居住者となった場合、そこからの配当についてはアメリカで申告して税金を払う必要がある。一方、日米租税条約(PDF)の第十条によると、これに対しては日本側でも課税できるが、その税率は(多少の例外はあるが)10%を超えないことになっている。

日本では、(2003年以降)2013年度までは証券優遇税制があり、配当金の税率は国税7%、地方税3%の計10%となっていた。また、日本の非居住者となる手続きをしていれば地方税はかからないため、実際の税率は7%、2013年に導入された復興特別所得税を入れても7.147%ということで、とくに何もしなくても租税条約の上限内に収まっていた。この優遇税制が2013年末で打ち切られたため、2014年からは国税と復興特別所得税合わせて15.315%の税率となり、租税条約の上限を超える状況となっている。

このことはアメリカの確定申告(tax return)にも影響を与える。(租税条約のことは置いておくとして)配当に対して日米両国でかかる税金をそのままにすると二重課税となってしまうため、通常はアメリカでの申告においてForeign Tax Credit(FTC)を申請して日本での課税分を取り戻すことになる。しかし、IRS Pub 514によれば、FTCは租税条約で定められた上限分までしか請求できないことになっている。

上記のとおり、2013年(分の申告)まではとくにこのことを意識しなくても税率が条約上の上限に収まっていたので問題なかったのだが、2014年以降の配当からは、10%を超える分が源泉徴収されないように明示的に手続きしないと、FTCでも取り戻せないので二重課税となってしまう。具体的には、「租税条約に関する届出書」なる書類を証券会社経由で税務署に提出する必要がある。また、すでに10%を超えて源泉徴収されてしまった税金は、還付請求書を提出すれば取り返せる(らしい)。

ここでの本題とは関係ないおまけ: 日米租税条約の第11条には、利子についての同様の規定があり、ここではやはり源泉地国での税率の上限は10%ということになっている。一方、日本の居住者がアメリカの銀行から受け取る利子はアメリカでは非課税という記述をよく見かけていて、租税条約の文面はどうにもそのようには読めないのが気になっていたのだが、これはアメリカ側の独自の規定らしい(非課税なので当然条約の内容にも反してはいない)。IRSが公開している文書の”Interest Income”の項に以下のような記述がある:

If the interest income is paid by a U.S. bank, a U.S. savings & loan company, a U.S. credit union, or a U.S. insurance company to a nonresident alien, it is nontaxable and nonreportable

もう一つ関係ないおまけ: 日米租税条約は近々改定される。この改定により、第11条が「当該他方の締約国(=利子の源泉地国利子受取人の居住国-当初公開時間違えてたのを訂正)において租税を課することができる」から「当該他方の締約国においてのみ租税を課することができる」に変わるので、たとえば銀行の利子についてはアメリカの居住者が日本の銀行から受け取る利子も日本側では非課税となる(上に書いたように逆側はすでに非課税である)。

コメント 4 件

  1. socialnews_nr Says:

    証券優遇税制廃止と租税条約とForeign Tax Creditの関係 http://t.co/RlRhKC6CIv

  2. 配当の租税条約手続きデビュー Says:

    […] 以前のblog記事で、日本で所有する(日本の会社の)株式からの配当について、日米租税条約により日本側で課税され得る税率の上限を超えて徴収されている分が日米の二重取られになる(可能性がある)ことを述べた。その後、煩雑な手続きを経て、去年から今年前半にかけて二重取られしていた分の還付請求と、この先の配当についてはじめから上限内の徴収にとどまるように手配するところまでこぎつけた。後述のように、還付はまだ受けられていないのだが、少なくとも新規配当分について手続きの効果が発揮されたことが確認できたので、ここで手続きの詳細についてまとめておくことにする。 […]

  3. 日米租税条約と属人主義課税 Says:

    […] そこで、次のオプションとしては、dual-resident taxpayerとしての立場は維持しつつ、他の方法で日米での二重課税をできる限り緩和することが考えられる。まず、日本源泉の所得のうち、日本で給料をもらって働くようなケースであれば大部分を占めることになると思われる給与所得については、Foreign Earned Income Exclusionが適用できる可能性がある。この適用可否について、IRSの判定資料をざっと見た限りだと、少なくともある程度の期間滞在していれば対象となりそうである。また、一般的に、日本源泉の所得について日本で課税された分についてはアメリカ側でforeign tax credit(FTC)を適用できると思われる。さらに、以前のblogで書いた、FTCの請求可能額が租税条約によって制限されるという問題もここではないと思われる。ここでの仮定では、このdual-resident taxpayerは租税条約上日本の居住者となることになっているので、日本側で租税条約を適用した軽減税率や免税の特典は得られないはずだからである。 […]

  4. 改正日米租税条約と銀行利子とtax returnの微妙な関係 Says:

    […] 利子をはじめとした日本源泉所得に対して日本で徴収された税金について、租税条約との絡みで必ずしも全額をFTCで請求できるとは限らないという点については、すでに以前blog記事としてまとめている。利子の場合、これまではその上限が10%だったのだが、日米租税条約が改正され、(非居住地である)源泉地国での利子が免税となったためにFTCを請求できる上限も0%になった(すなわち請求できなくなった)。源泉徴収される税金については、この免税措置が2019年11月1日以後の分について適用されるので、2019年分の申告にあたっては、 […]

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