Nov 07

(だいぶ前にtwitterでつぶやいた内容に(大幅に)加筆・修正してブログ化しました)

前のfinance記事でも書いたHSAと同様に、転職して新しく経験したfinance上の制度の一つがESPP(Employee Stock Purchase Plan)。前の職場は非営利だったので、ESPPどころか株式自体存在しなかった(のでESPPの存在も知らなかった)。新しい会社はごく「普通」の株式会社(公開済み)で普通にESPPが提供されていたのだが、当初は、勤め先の会社の株を買う行為がファイナンス的に筋が悪いということと、日本の似て非なる制度である筋悪な「持株会」を連想させるネーミングとで、思考停止的に不要な制度かと思い込んでいた。が、もう少しちゃんと理解してみると、ESPPの本質は「かなり高利の積立預金」であり、むしろ積極的に利用するべき制度であることが判明した。この記事は、その当時の検討内容と、その後の疑問解消のために調べた結果のまとめである。

ESPPの制度概要

ESPP制度の詳細には、法律によって規定されている制限と、プランごとに自由に変えられる部分とがあり、とくに後者については筆者は全体像を把握しているわけではない。ここでは主に筆者自身の会社のプランの場合を念頭に書いているが、少数の知り合いの話やネット上の他の情報などと合わせると、概ね典型的な制度と思ってよさそうである。

  • ESPPは、ある決められた期間(offering period)中に給与から自社株購入用の資金を積み立て、期間中の決められた一定期日(purchase date)に購入するというプログラム。
  • 購入した株式はプラン加入者の従業員が市場で自由に売却できるが、プランによっては一定期間の保有が義務付けられている場合もあるらしい(筆者の会社のプランは基本的に購入後ただちに売却可)
  • 多くのプランでは、購入価格が最大15%割引になる(15%の上限は法律上の制限)
  • また、多くのプランでは、”lookback”と呼ばれる制度が導入されていて、offering periodの初日(offering date)およびpurchase dateの時価のうち、低い方の価格で購入できる。最大15%の割引がある場合、この「低い方」に対して適用される
  • Offering period中のある1年の間にESPPで購入できる株式は、offering date時の時価で$25000相当分まで(これは法律上の制限)。ある年の購入額が$25000に満たなかった場合は翌年以降に繰り越しできる
  • プランによっては(多くの場合?)、あるpurchase dateにおける株式の時価がoffering dateの時価を下回った場合、”auto-reset”という機能が働き、そのpurchase dateをoffering dateとする新しいoffering periodに自動的に移行する(auto-resetはたぶん法律上の規定ではなく、またその有無はたぶんプランによる)
  • プランからの脱退はいつでも可能。その場合積み立てたお金は払い戻される。ただし、一度脱退すると次のoffering periodまでは再加入不可能

筆者の会社のプランの場合、offering periodは2年、purchase dateは6ヶ月おきに4回(これは典型的なパターンの一つと思われる)、lookback制度があり、購入時の割引は15%。auto-reset機能もある。

ここでまず重要なのは、15%の割引と、購入後すぐに売却できるという条件である。この2点により、(購入から売却までの短い期間中の値下がりリスクはあるが)、実質的には15%の利子がつく半年間の積立預金に相当する制度になっている。その上でlookback制度がこれをさらに有利にしていて、もしpurchase dateまでに株価が上昇していた場合は、割引率(すなわち実質的な利率)が15%からさらに上昇することになる。一方、株価が下落した場合は下落した価格からの15%割引になるので、株価の変化に関わらず最低15%の利子が付く預金ということになる。

ただし、株価がoffering dateから下落している場合は、$25000の購入上限額に絡む別な注意が必要である。この上限額はoffering date時点での価格で決まっているので、purchase dateでの時価がそこから大幅に下がっているような場合には、たとえ十分な額を積み立てていたとしてもそのうちごくわずかしか購入にあてられない可能性がある。たとえば、offering dateでの時価が$250だったとすると、購入上限の株式数は100株。これがpurchase date時に$25にまで下落していたとすると、仮に上限一杯の$25000積み立ててあったとしても$2500分(100株)しか購入できない。この場合、預金としてみた場合の利率は15%割引が適用されたとして1.5%まで下がってしまう(いまのご時世なら、リスク0の預金であれば半年で1.5%でもかなりいい条件ではあるが)。なお、このようなケースでは、積み立てた資金のうち、超過分がpurchase date後に払い戻しになるらしい。

さらに、このような(株価下落の)場合、auto-resetの有無も重要である。Offering date後に株価が大きく下がり、そのあと低空飛行を続けてしまうというような場合、auto-resetがないとoffering periodの期間中相対的に不利な条件が継続することになる。

一方、購入後に一定の保有期間を要求するプランの場合は、単純な積立預金の類推は成立しない。その期間の長さにもよるが、株式の価格リスクを(より本格的に)伴う本格的な投資行動と考えるべきだろう。この場合は次節で述べる税金関連の制度も重要な意味を持つ。

ESPPの税金制度

注意: この節は無駄に長くて複雑だが、残りの部分を読むにあたってはほとんど必要ない内容である。お急ぎの方、興味のない方は飛ばしても問題ない。

ESPPは、本来(というか表向き?)は税制優遇措置を伴う投資制度という位置づけになっているらしく、税金上の特殊なルールがいくつか存在する(また登場した、アメリカ得意の無駄に複雑な税制…)。これらのルールはIRS Pub 525で説明されている。ちなみに、IRS的にはESPPはstock optionと同じような枠組みで扱われるらしく、割引後の購入価格のことを”option price”と呼んでいたりする。

これらのルールを理解するためには、まずholding period requirementという条件を説明する必要がある。これは、ESPPの税制上の優遇を受けるためには、購入後の株式を以下の2つの時点のうち遅い方まで保有しなければいけないというもの:

  • 購入後1年
  • Offering date後2年

Holding period requirementを満たすかどうかに関わらず、ESPPの売買で得られた利益は一部が給与(wage)としてordinary income扱いとなり、その他の部分は(長期または短期の)capital gain(またはloss)として課税される。ただし、その詳細がrequirementを満たしているかどうかで変わる。

Holding period requirementを満たしている場合、給与部分は以下の2つのうち小さい方になる:

  • Offering date時の時価に対する割引額
  • 売値と実際の買値(割引後)の差額

ここで、offering date後に株価が下がった場合、上記における割引額は実際の購入時の割引額より大きくなることに注意。Capital gainは上記のうちの後者から給与相当部分を引いたもの。また、holding period requirementの定義(最低1年保有)により、これは常にlong term capital gainになる。売買の結果がlossになった場合は、ordinary incomeは0とみなされ、差分がcapital lossとなる。

Holding period requirementを満たしていない場合は以下のようになる:

  • 給与部分はpurchase date時の時価と実際の(割引後の)買値の差分
  • Capital gain部分は実際の売買の差額から給与部分を除いたもの

Requirementを満たした場合と異なり、給与部分の計算には常にpurchase date時の時価が基準となる。また、offering dateからpurchase dateまでの間に株価が上昇していた場合、requirementを満たしていた時はoffering date時点での割引額のみが給与となるのに対し、requirementを満たさなかった場合は上昇した株価分も給与とみなされる。Requirementを満たさなかった場合のcapital gainは、short termとなる場合が多いだろうが、1年を超えて保有しつつoffering dateから2年経過する前に売却した場合はlong termとなる。売買の結果がlossとなった場合でも給与部分の計算は変わらない(したがって、その分のlossの金額が大きくなるので、税金処理上「有効」に使わないと二重に損になる)。

これらの条件はかなり複雑なので例で考えないとわかりにくい。Pub 525には以下のような例が載っている:

  • Offering date時の価格 $22
  • Purchase date時の価格 $23
  • 実際の購入時の価格 $20 ($22から約10%割引)、100株、計$2000
  • 売却時の価格 $30(100株分で$3000)

Holding period requirementを満たしている場合、offering dateの価格の方が低いので、実際の割引部分のみが給与(ordinary income)となる。これは$2×100株=$200。Capita gainは実際の売却益$1000からordinary income部分を除いた$800で、これはlong term capital gainとなる。

Holding period requirementを満たしていない場合、purchase dateの時価と実際の購入価格の差分$3×100株=$300が給与となり、残りの$700がcapital gainとなる(これはshort termかもしれないしlong termかもしれない)。

一方、売却の結果がlossになるようなケースとして以下を考えてみる:

  • Offering date時の価格 $22
  • Purchase date時の価格 $23
  • 実際の購入時の価格 $20 ($22から約10%割引)、100株、計$2000
  • 売却時の価格 $10(100株分で$1000)

このとき、holding period requirementを満たしていない場合は依然として$300が給与扱いとなる。Capital lossは給与相当分を上乗せした購入価格(要するにpurchase date時の時価)と売値の差分で、$(23-10)×100=$1300。この例では給与相当分が$3000以下なので、結局capital lossからその分を単純に相殺可能だが、大きめの額を積み立てた上でlossになるような非常に運の悪いケースだとcapital lossからだけでは埋め合わせられないということもあり得る。

その他、holding period requirementを満たしているケースでpurchase dateまでに時価が下がった場合やlossになった場合など、漏れている場合もあるのだがここでは割愛。FidelityTurboTaxが参考になる具体例を紹介している。

いつもながら、驚嘆すべき複雑怪奇ぶりである…

定期預金としてのESPP

前節で税金制度について細かく述べたが、実は筆者個人的にはほとんどの部分は関係ない(理解できないと気持ち悪いので一応調べたが)。というのは、ESPPで購入した株式はpurchase date後なるべく早く売却するのが正解と考えているため(当然holding period requirementは満たさないので、満たした場合の制度も関係なくなる)。

冒頭でも述べたように、勤務先の株式を保有し続けるという行為自体が筋の悪い考えだし、勤務先ということを除いたとしてもたまたま保有してしまったこの銘柄が1年から1年半後にどうなっているかの見通しをもっているわけでもなく、そもそも積極的に保有する理由がない。大体、個別の銘柄の相場など予測できる自信はないから日頃はちまちまindex fundなどを買っているわけで、たとえ勤め先だろうとこのときだけそんな自信が芽生えるはずもない。

即座に売却する場合の唯一の欠点は、purchase dateの時点で株価が上がっていた場合、offering date時の株価との差額にもその年のうちにordinary incomeで課税されてしまうことくらいだろうか。この差分がよほど大きければ、requirementを満たす期間の後すぐに売ると決めてそこまで保有するという考えもありかもしれないが、ほとんどの場合は即売却が正解であろう。なお、purchase date時の株価が下がっていた場合、requirementを満たさずに売るほうがordinary income相当部分が少なくてすむので、むしろ積極的に即売却すべきといえる。

Capital gainがshort termになることは、そもそもcapital gain自体があっても少額だと見込まれることから、この文脈では問題にならない。長期で保有した場合に増えるかもしれないgainがlong termになる利点は、損失のリスクも同様に拡大していることとのトレードオフなので中立的といえるだろう。

即売却した場合でも、(筆者の会社のプランの場合で)15%の割引は確実に得られるので、制度概要の節で述べたように、これは本質的には(筆者の会社のプランの場合で)利子15%の6ヶ月積立定期預金だと考えられる。本物の定期預金はもちろん、国債でもいまどきこの金利はあり得ないし、より大きなリスクを伴う株式投資でも半年で15%は驚異的といえる。これが「ほぼ無リスク」で得られるなら活用しないということは考えられない。

ただし、「ほぼ無リスク」とはいっても、厳密には買値以上で売れることが制度上保証されているわけではなく、あくまで即座に売ればほぼ購入時の時価近くで売れる場合が多いだろうという予測に過ぎない。通説上もこの予測がひどく的外れということはないはずだが、定期預金のアナロジーを謳う以上はやはりもう少し精密に把握しておきたい。そこで筆者の勤務先の株価の場合で具体的に調べてみた。

この会社は2012年4月20日に上場し、現在まで約640日取引されている。このそれぞれの日について、「終値で購入し翌営業日の初値で売る」とした場合の価格変動を計算し、何種類かの損失率に対して、「その損失率を超えない(gainになる場合を含む)日の割合」を求めた。その結果は以下のとおり:

  • 損失1%: 88.77%
  • 損失5%(割引15%の場合で実質プラス10%): 99.38%
  • 損失10%: 99.38%
  • 損失15%(割引15%の場合、これを超えると元本割れ): 99.53%

この結果に限っていえば、「購入時の時価を少し下回る可能性はあるが、元本割れの可能性はかなり低く(0.5%未満)、10%以上の利益になる可能性が99%以上」ということで、「ほぼ無リスク」の直感にもあっていると言っていいだろう。なお、これは購入価格がpurchase date時の時価を基準にした場合の話なので、lookback制度がある場合には購入価格はそれよりさらに低くなる可能性があるから、実際にはさらに有利な結果になるはずである。

ちなみに、市場での価格差がマイナス15%を超える場合、つまり15%割引の上で元本割れとなる場合はこの期間中に3日あり、最大の下落幅は44%($33.14から$18.54)。この日の場合だと、仮に6ヶ月前がoffering dateだったとしてもほぼ同じ程度の損失となっている。15%割引を考慮したとして約3割損。1%未満の確率(あくまでこの調査の統計では)とはいえ、運が悪ければこのくらいの損になることはあり得るし、株式である以上、一夜にして紙くずとなって全額失うということもあり得なくはない。最悪のイベントとしてそのケースがあることは一応覚悟しておくべきだろう。

ところで、翌日売却の代わりに1年間保有した場合で調べてみると、結果は以下のようになる(全体でも2.5年分程度しかないので統計上の信頼度はやや落ちるが):

  • 損失1%: 58.06%
  • 損失5%(割引15%の場合で実質プラス10%): 60.36%
  • 損失10%: 63.94%
  • 損失15%(割引15%の場合、これを超えると元本割れ): 67.77%

このように、明らかにリスクが高まっている。(lookback効果は考えないとして)元本割れの確率が1/3程度あることになり、これではとても預金並とはいえなくなる。もちろん、より大きく儲かる可能性も増えているので単純にこちらが悪いというわけではない。文字通りハイリスク・ハイリターンということである。

以上は株式購入後の価格リスクに関する検討だったが、預金(や安全性の高い債権)との比較として考えるなら、信用リスク、すなわち株式購入までの間の拠出したお金の安全性も気になるところである。具体的には、仮に拠出期間中に会社が倒産したらESPPへの拠出金はどうなるのかということである。この点については、実は調べても一般的なことはよくわからなかったのだが(プランによって大きく違うのかもしれない)、勤め先の担当者に質問したところ、「会社が倒産したらESPPへの拠出金も債権者への支払いにあてられる。ただし、(担当者の)同僚に聞いたところでは、こうした拠出金は支払い順位的には最上位(支払いにあてられる順位としては最後)の位置づけで、また過去に実際にあった例では倒産前に払い戻されていた」とのことだった。要するに、たとえば銀行預金におけるFDICのような制度で保護されていないので、いざとなると戻ってこない可能性もある(が一応なるべく戻すように配慮されることにはなっている)、ということだと思われる。ちなみに、その担当者いわく、そんな質問をされたのははじめてとのことだった…。

ESPPの税金処理

ESPPで購入した株式を売却すると、その年のtax return(翌年4月締め切り)で所得を申告して税金処理をする必要がある。デビューしたての筆者の場合、この申告はまだ未経験なのでよくわからない部分もあるのだが、IRS Pub 525やweb上の情報からすると、概ね以下のような流れらしい:

  • 給与部分については、会社がちゃんとしてればW-2に反映されるのでその内容を(他の給与とあわせて)申告すればよい
  • もしW-2にESPP関連の給与が記載されてなかった場合は、自分で相当額を計算して申告書に記載する。年明けに送られてくるはずのForm 3921Form 3922にそれに必要な情報が載っている
  • Capital gain (またはloss)に相当する部分は、株式を売却したブローカーから送られてくる1099-Bに記載されている(普通の株式売買のときと同じ)ので、その内容を申告する

筆者の場合は、実際に購入・売却をした2ヶ月後くらいの給与明細に、ESPP 給与相当額が記載された明細をもらったので、W-2にも反映されるのではないかと期待…。

ところで、この件を調べていたら、1099-Bの内容が不正確で、そのまま申告すると二重課税になる場合があるという注意を発見した。この人の場合、ブローカーが割引やそれへの課税のことを関知せずに実際の売買値をもとにしたcapital gainを記載していたらしい(ただし、この記事には一部不正確な部分が見られる。たとえばholding period requirementを満たさずに売却した場合は売買の差額全体がordinary incomeになると書いているが、これは誤りで、一部はcapital gainになる)。筆者のブローカーの場合、ESPP関連の取引には”stock plan”という特別なアカウントが使われていて、”purchase confirmation”にも割引額が記載されているので、こういう間違いは起きないと信じたいところだが、来年春の申告のときには気をつけないといけない。(結果的に若干gainだったのだが)給与相当部分を除くと実際のgainはごくわずかのはずなので、違っていればすぐに気がつくとは思うが。

まとめ

ESPP(従業員株式購入プラン)は、最大15%の割引率が高くて購入後即売却可能であるなら、割引率の分だけ利子の付く定期預金に近い性質があり、かなりお得。預金と違って元本保証はなく最悪拠出金全額を失う可能性はあるが、そこさえ覚悟できれば実際上はその確率はかなり低く、しかもかなりの高確率で割引率に近い「利子」が得られる。ただしそのためには長期保有時に得られる優遇税制に惑わされずに購入後なるべく早く売却することが重要。この方法の場合税金の処理も比較的簡単だが、一応制度を頭に入れて書類の間違いなどに気づけるようにするとよい。

コメント 1 件

  1. Safe Harborに到達 Says:

    […] ESPPのディスカウントと売却益(リンクした記事にも書いたように、筆者はpurchase day後すぐに売却することにしている上、offering dateの価格がかなり低い時期のものだったのでゲインも結構出た) […]

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