森博嗣 「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER」(講談社文庫)

明らかなネタばらしはしないように努めていますが、 なるべくなら本編の読後にお読みください


すみかわ君のすすめ(?)により 挑戦。 作者は現役の大学助教授だそうで、全編を通して理系っぽい会話と学問観 の表明にあふれている。会話のオタク(ってもはや死語だが)ぶりは、狙ってやってる のだろうけどくどく感じる人もいることだろう。 同じ理系としてはこれ自体にそんなに抵抗は感じないし、なるほど と思うところもあるけど、別にミステリーの中でやらなくてもっていう気はする。 むしろエッセイでも書いた方がおもしろく読めるのでは。
ミステリーとしてのできについて。 犯人、メインのトリックとも、なるほどとは思うがそんなに意外ではない(だから だめだというわけではない)。 ただし、トリック自体は大仕掛けの印象の割には論理的にも納得いくのに対し、 動機が貧弱なのはいまいち。殺す必然性ないケースばっかりじゃん。 とくに第2の殺人は、トリックの点でもルール違反ぎりぎりのきわどいところを 走っているという感じがして、いただけない。 僕がミステリーに要求するfairenessはかなり 緩い方なので、ここもunfaireだとまでは言わないが…。 ラストが勧善懲悪パターンでないのは、ひねくれ者としては評価できる。 タイトルの中の"F"の意味は、作中のオタクムードの流れで大体予想できるが、 ちょっとこじつけっぽい気がしていまひとつ。むしろ、副題の "perfect insider"の方が洒落ていて好きだ。
とりあえずもう一冊借りてるので、そっちも読んでみようかなという程度の 評価はできる。それと、解説によればシリーズ10冊を最後まで読むと作者の遠大 な構想が明らかになるらしい。それも気にならないこともない。
ところで、国枝女史の描写って、最近はやりのセクハラに相当するとか 言われるんじゃないかなあ…と余計な心配も。2作目にも登場するみたいだけど、 ずっとこんな感じなんだろうか。
JINMEI Tatuya / KAME Project / 吾с(Japanese)