2008/05/24: 401(k)について
終身雇用・年功序列、墓場まで面倒をみてくれる(のが昨今はかなり怪しいながらも建前の) 日本型システムからあぶれてしまった身としては、 リタイアメントプランは切実な問題。 アメリカでリタイアメントプランといえば、 公的なsocial securityと並んで、 あるいはそれ以上によく耳にするのが401(k)ではないかと思われる。 渡米前には、401(k)って当然のようにみんなが入る(べき)ものかと思っていたが、 いろいろな条件がわかってくるとほんとに有利なのか怪しい気がしてきたため、 突っ込んで考えてみた。結論としては、 税金の控除効果が高いので拠出した方がよさそうではあることがわかった。 ただし、その効果は自明とはいえず、 控除されて浮いた税金分も浪費せずに将来のために運用することが前提となる。 以下はこの結論に至るまでの詳細を説明したもの。
いまの勤め先で提供されている401(k)にはいくつかの問題がある。 まず、company matchがない。 また、401(k)の場合、 投資先はプランを提供している会社が用意するfundに限られる上、 提供されるプランで選択可能なfundは expense ratio(信託報酬)の高いものばかり。 ざっと見る限り一番コストの低い Summit S&P 500 Index Portfolio というのでも、index fundのくせに0.39%もかかる(一応年々下がってはいるようだが…)。 一方、401(k)お仕着せのプランでないfundを自分で選ぶ場合、 もっとコストの低いものがたくさんある。 たとえば Fidelity Spartan 500 index だとexpense ratioは0.1%、 E*TRADE S&P 500 index だと0.09%。
さらに、一般に強調されている税金面での優位性もそんなに自明とは思えない。 税金が繰り延べされている間に複利運用できる効果が大きいのは 間違いないにしても、いずれ引き出すときにはordinary income taxとして課税されるので、その時点である程度以上の収入がある場合には 自主運用した場合の利益にかかるcapital gain tax(現状だと普通15%)に比べて 高い税率が課せられる可能性がある。たとえば直近の税率でいえば、 年間の課税対象所得が$31850-$77100の範囲で独身だと、 限界税率(marginal tax rate)は25%になる。 65歳以上の場合には特別なクレジット(免税)の制度があるようだが、 2007年確定申告用のinstruction を見ると(p34, Line 30)、 (独身の場合)$17500以上の adjusted gross income(= 課税対象所得)があるとその対象にはならない模様。
したがって、401(k)で得になるのは、税金の繰り延べ効果が、 高い運用コストと運用益にかかる高い税率によるマイナス分を補う場合ということになる。 これはぱっと数字を見ただけでは判断がつかない。
そういうわけで、まじめに計算してみることにした。 将来の税金体系や税率など、不確定な要因も多いので、 乱暴は承知の上で以下のように仮定する。
- 401(k)の最大拠出額は年$15500(= 現状の値。 ただしこれはおそらく今後増えるのではないかと思われる)のままとする。 401(k)を使うプランでは、この額を毎年拠出し、 すべてexpense ratio 0.39% のfundで運用する。
- 401(k)を使うプランの場合、さらに、拠出によって控除された所得 に対する税金分も運用に回す。この場合は自主運用なのでexpense ratio 0.09%とする。この分の税率は28%とする (したがって毎年$4340ずつ余分に運用することになる)。
- 401(k)を使わないプランの場合も、毎年$15500をexpense ratio 0.09% の(no load)fundで運用する。
- いずれの場合も、分配金の利回りは税引き前で1.18%とする(某index fundの過去5年間の分配金利回りの平均)。 401(k)プランでは、分配金は非課税。 自主運用分については分配金はqualified dividendsとして課税 されるものとし、税率は15%と仮定。 分配金はすべて同じfundに再投資するものとする。
- 401(k)からの引き出し時にかかる税率は25%と仮定 (ここは数十年後は変わっている可能性大だが…)
- 自主運用fundの運用益にかかるcapital gain taxの税率は現状のまま(15%)と仮定 (この税率はBush減税による最近の制度変更のようなので、 数十年後といわずすぐにも上がりそうではある…)。 capital gain計算のための取得費用は、fundへの拠出総額 + (運用期間 - 1)年分の分配金の合計とする。
- 20年、5%の場合
- 401(k) $599,480
- 自主 $561,318 (差額 $38,162)
- 20年、8%の場合
- 401(k) $850,703
- 自主 $781,214 (差額 $69,489)
- 25年、5%の場合
- 401(k) $886,255
- 自主 $825,528 (差額 $60,727)
- 25年、8%の場合
- 401(k) $1,394,741
- 自主 $1,272,667 (差額 $122,074)
微妙な差ではあるが、5万から10万ドル程度の差がつくことになるので、 401(k)を組み入れた運用も必ずしも悪くないとはいえそう。 ただし、この差は401(k)内で非課税運用をしている効果よりは、 拠出額を控除した上でそれも運用したという積み増し部分があることが本質的。 仮に控除した額を運用に回さずに浪費してしまったとしたら、 最終的な手取り額はすべて自主で運用した場合を(10-20万ドル程度)下回る。 たとえば、名目利回り8%、運用期間20年の場合では、 401(k)だけでの運用の税引き後手取りは$631,963であり、 自主のみで運用した場合の手取額を約15万ドル下回ってしまう。
以上から、現状でベストと思われる方針は、401(k)には目一杯拠出して節税し、 拠出によって控除された税金部分は自主的に運用することだといえそう。 さらにその他の情報をあわせて考えると、 具体的な運用方針としてはこんな感じか。
- 401(k)には目一杯(2008年は$15500)拠出し、MMFで運用
- 自主運用部分はなるべく期待リターンが高くてコストの低いfundを中心に運用
- 自主運用のために(non deductible) traditional IRA の口座を作り、そこに出せるだけ(2008年は上限$5000)拠出。 それでも資金が残ればさらに一般口座で運用。
- さらに2010年以降はtraditional IRAから Roth IRA へのconvertに関する年収制限が撤廃される と言われている ので、そうなったらRoth IRAへconvertする。
401(k)をMMFで運用するのは、いざというとき(たとえば失職時)の生活防衛資金とするため。 この目的の場合、 必要になったときに投下資本を損なわない程度にすばやく引き出せる必要があるが、 401(k)のMMFはこの目的にはかなり合致しているように見える。 すなわち、MMFなので利回りはまあまあありつつもリスクは低く、 (401(k)全般についていえることだが)流動性についても確認した限りではそれほど悪くない (1-2週間程度で引き出せるらしい)。 401(k)からの早期引き出しということで10%のペナルティはかかるものの、 「いざという場面」の生じる確率は低い(低くないと困る…)のが前提で、 このペナルティは基本的には生じないで済むはず(済まないと困る…)。 また、生活防衛資金に手をつけなければならないような 「いざというとき」であれば、収入も減っている可能性が高く、 引き出した時点でかかる所得税率が有利になる効果である程度相殺するということも期待できる。 生活防衛のための資金がある程度積み上がってしまったらまた考える。
一方、より期待リターンの高い運用先としては、上記の計算が示しているように、 401(k)口座内での課税繰り延べ効果よりもコストの低いfundで運用する利点の方が優れている。 したがって、この用途にはfundを自由に選べてかつ運用中の 課税繰り延べ効果がある(non deductible) IRAを第一候補とし、 残った分を一般の口座(non deductibleかつ運用の途中利益も課税される) で運用するのがよいと思われる。
Traditional IRAからRoth IRAへのconversionは、 前者の後者に対するほとんど唯一のadvantageがtax-deductibleであること (条件を満たせば - 僕の場合は満たさない)を考えれば当然。 問題はTax Increase Prevention and Reconciliation Act of 2005の施行 までに議会の気分が変わって予定が取り消されてしまう場合だが、 高々2年くらい(maxの拠出額で大体1万ドル)であれば最悪 traditional IRA内で塩漬けになっても諦めはつく。
Email: jinmei at kame dot net
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