筆者の勤め先は2015年から401(k)のemployer contribution(いわゆる”company match”)をはじめたのだが、本来もらえるはずのmatchのかなりの部分をもらい損ねていたことにごく最近気がついた。筆者の金融リテラシーが低いだけで、こんなことはもしかしたら常識なのかもしれないが、万一同じ罠にはまっている(あるいはこれからはまる)人が他にもいる場合のためにここに書いておくことにする。
この件は、筆者が、毎年可能な限り早く401(k)の上限額までの拠出(max out)を完了させようとしていることに関係している。これは、一般論としては、(年間の収支の点で上限まで拠出する余裕はあるとして)運用するお金をなるべく有利(=運用益への課税先送り)な場所になるべく長く置いておくという意味で合理的な方法のはずである。Matchがないうちは実際これで何の問題もなかったのだが、company matchが導入されたことでこの方法では損になるということがわかっていなかった。
(本題から少し脱線するが)筆者はそもそものmatch金額の計算方法を正しく理解するまでにもかなりの時間を要した。Matchのさせ方の詳細はプランによっていろいろ異なるようだが(法律上の縛りはあまりないように思われる)、典型的なのは「給与のx%を上限として拠出額のy%をmatch」という方式のようだ。筆者の会社のmatchもこの方式で、プランの説明による正確な文面は次のようになっている: “$0.50 for every $1.00 you contribute up to x percentage of your earnings”. したがってこの場合y=50で、xは筆者の現在の条件では2ということになっている。
ごく最初は、「給与のx%を上限」に相当する条件がほとんど目に入っておらず、拠出額の半分がmatchされるものかと思ったのだが、とくにx(もしくは給料そのもの)が小さく、それに対して拠出額が大きい(典型的にはmax outするようなとき)場合、実際には給与による上限の方が先に効くことになり、拠出額に対する割合(y)にはあまり意味がなくなることが普通である。たとえば、2016年の拠出上限$18000の50%は$9000だが、x=2の場合にこれ相当のmatchを得るためには給与は$90万ないといけない。
次に、「給与のx%を上限として」が何を修飾しているのかも筆者は当初誤解していた。これはmatch金額の上限自体を指しているのかと思ったのだが、実際にはこの値はmatch対象となる従業員拠出額の上限である。たとえば、年間の給与が$12万の人の場合、x=2, y=50であればmatch対象の従業員拠出額は$12万×2%=$2400、その50%がmatch金額なので、結局$1200が上限となる(上で$9000のmatchを得るために$90万の給与が必要になるのも同じ計算による)。
(ここから本題に近づく)以上のことに加えて、これらの上限ルールは毎回の給与支払いごとに適用されることが多いようだ。したがってたとえば、上の年間給与$12万の例ではmatchの総上限は$1200だが、給料日が毎月2回($5000ずつ)だとすると実際には各給料日ごとに上限ルールが適用されて、各回のmatchの上限は$50($5000×2%×50%)ということになる。
それでも(y=50だとして)毎回最低$100は拠出して年間を通じて拠出し続ければ総上限である$1200のmatchが得られるのだが、たとえばもしmax outになるまで給料全額を拠出して2ヶ月で拠出を完了したとすると、matchは4回×$50=$200しかもらえないことになる。
筆者の場合、2015年、2016年と2年にもわたってこの失敗をしてしまった(さすがに拠出期間はもっと長いが)。2015年の段階で、拠出額の50%matchのはずなのに妙に毎回のmatchが少ないこと(上記の通り最初は給与比の上限の方が効くことをよく理解できていなかった)や、max out後にmatchが止まっていたことなどを不思議に思っていたのだが、かなり大きな金額をもらい損ねていたことをちゃんと理解せずに2016年にもまた同じことを繰り返してしまい、やっとおかしいと気がついたときには今年もmax out完了してしまっていた。言い訳になるが、matchの計算方法自体が(筆者には)複雑でわかりにくかったこともあって、そもそも自分がもらえる上限が本来はいくらなのかもよくわかっていなかったもの一因である。
この失敗はもう取り返しがきかないらしいので、過ぎた分は諦めるとして、今後同じ失敗を繰り返さず、かつ「運用資金を有利な場所になるべく長く置く」ことを両立させる拠出プランを考える方が建設的だ。このためには、年の前半に可能な限り多く拠出するのは変えないものの、max outが近づいてきたらその後年末までは各給料日ごとの上限のmatchをもらえるのに必要十分な金額だけを拠出するように調整し、年の最後の給料日でぴったり拠出上限に到達するようにする必要がある。上記の$12万の例では、毎給料日に最低$100は拠出している必要があるので、(税金などを考えても非現実的だが)毎回給料の全額を拠出可能だとして、
- 年初からの3回は全額($5000)拠出
- 4回目に$1000拠出
- 残りの20回は各$100拠出
して合計$18000拠出(matchは満額の$1200受け取る)するのが最善ということになるだろう。
なお、ここまで最適化せずに単に安全にmatchを満額受け取るためには、各給料日ごとの拠出額を均等にするというのが一番簡単な方法だと思いたくなるが、通常の給料以外に金額未確定のボーナスがあるような場合は、この方法でもmatchを満額取り損ねる可能性がある。均等割した通常給与からの拠出額は、(max outする人なら)おそらくその合計だけで拠出上限になるように計算されていることが多いだろうが、これ以外に未確定のボーナスがあってそこでも拠出すると、年末になる前にmax outが完了してしまい、その後の給与からは(そもそも拠出がないので)matchを受けられないことになる。したがって、このような報酬方式の会社の場合(筆者の現勤め先がそうである)、本当に最大限のmatchを得るためのベストの拠出戦略は、未確定のボーナス分も見越して年末近くまではやや少なめに拠出しておき、ボーナスでの拠出も含めて全体の金額がほぼ確定した段階で残りの拠出額を調整し、最後の給与でぴったりmax outするようにすることだろう。しかし、ここまでやっている人がいるかというとかなり怪しい気がする。そうだとすると、筆者のような大失敗はかなりの低リテラシーぶりの露呈ということになるにせよ、実はmatchを満額受け取るというのはかなり難しい技だということかもしれない。
ところで、プランによっては、ここで書いたような罠を回避するための規定を設けている場合がある。これは一般的に”True Up”と呼ばれている(IRSサイトなどでは見つからないので税金制度上の用語ではなく俗語と思われる。たとえばこのサイトの説明参照)。True Upのあるプランでは、その詳細もプランごとに違うかもしれないが、拠出パターンに関係なく、総額ベースでもらえるはずの金額のmatchを得られることを保証するという点では概ね共通のようだ。
実はこの件で勤め先のbenefit担当に文句を言ったところ、勤め先でも来年からTrue Upが導入されるとのことであった。そのプランのTrue Upでは、早期にmax outしてしまった場合、その後年末まではmatchは出ないのだが、年末時点で計算し直して「もらえるはず」の額との差額がまとめて雇用者拠出されることになるらしい。朗報である。True Upの導入により、上で書いた不確定ボーナス問題も回避できそうだ。ただし、(実際に確認してはいないが)年末より前に会社を辞めたりクビになったりすると差額のmatch分を受け取れなくなるような気がするので、上述のような変形拠出プランにして各給料日に確実にmatchを得られるようにしておくことは依然有効なのではないかと思われる。ということで、高い勉強代を払うことになったが多少は今後の助けになりそうな知識が得られたことでよかったと思うことにしよう。
2019年March14日 7:29 AM
[…] Matchはできる限り給料日に取る(つまりtrue-upにはできるだけ頼らない) […]
2021年February2日 9:26 PM
[…] 雇用者拠出(company match)のTrue Up(以前書いたblog記事参照) […]