May 06

以前のblog記事で書いたように、underpayment penaltyを回避するための俗に言う”safe harbor”入りするために、筆者は今年分の税金(来年春に申告)をかなり精密に見積もる必要がある。これには、収入の見積もりは当然のこととして、具体的な税金の計算に必要な、税率をはじめとする細かい諸制度の理解、控除可能な金額の見積もり(ここは甘くてもsafe harbor入りのためには問題ないが、その分ムダに源泉徴収を受けることになる)など、かなり多くの情報や調査が必要である。

先ごろ2015年の税金処理が終わって一段落したので、ようやくこの問題に対処する余裕ができた。いつものことながらまったく一筋縄ではいかなかったが、いろいろ調べたり計算したりして、なんとかそれらしい税金の見積もり額、またその税金に対するsafe harbor入りのために必要な源泉徴収額の調整分を計算し、その手配をするところまで完了した。以下はその内容の詳細に関するメモである。以下、年によって額が変わる数字については、とくに断りがない限り2016年分の税金で適用される値である。

所得類

筆者が今年得ると予想される所得のうち主なものは以下のとおり:

  • 通常の給与。これは(会社を辞めたり変えたりしない限り)年のはじめには確定している。
  • 業績連動の四半期ボーナス。この額はそれぞれ支給直前までわからないのだが、可能性は数種類しかないので、概ね「真ん中より上」くらいだと思っていいだろう。また、確定するごとに実際の値で置き換えて見積もりをより精密にできる。
  • RSU。年内の付与の予定は確定しているので、現時点での株価を元にした見積もりは可能。実際に付与されて金額が確定したものから順次反映させて見積もりを精密化可能。また、RSUの場合は付与の時点で源泉徴収があり、筆者の計算ではその分は考慮せずに源泉徴収額の調整をするつもりなので、RSUによる所得がいくらになるかはあまり心配する必要がないはずである。
  • ESPP。これがおそらく一番厄介で見積もりも難しい。まず、purchase date時点での時価が事前にはわからない(当然だが)のはもちろんとして、他にもいろいろな制限があるため、具体的に何株くらいを購入することになるのかを見積もるのが難しい。また、ESPPの給与部分は源泉徴収されないので、この部分の税金が通常時の水増し源泉徴収でカバーされるようにしておかないといけない。一応、現時点での株価を元に、制度上購入できる最大株数を購入したという仮定のもとで試算することにした。もちろん、purchase dateごと(筆者の場合はそこですぐ売却するので全額が確定する)に実際の所得で置き換えて精密化する。
  • 運用資産からの所得。去年は例外だったが、筆者は通常はほとんど資産売却をしないので、この分野の所得は基本的には利子と配当・分配金のみである。これらも事前に精密に見積もるのは難しいが、所得全体に占める割合はかなり少ないので、過去の例を参考に多少余裕を持たせておくくらいでも実用上は間に合うだろう。

控除類

所得や税金から差し引けるdeductionやcreditに相当するものとしては以下がある。

  • “pretax”の拠出: 401(k)、健康保険料、HSA拠出(federalのみ)。これらの拠出可能(そして予定)額は年初に確定している。これらはphase outやAMT(ともに後述)などの影響を受けずに控除できる。
  • 州所得税。Federalのitemized deductionに使える(が、次のSDIともどもphase outやAMTの影響を受ける、後述)。2015年分の追加納税額については(FTBから文句を言われない限り)確定している。今年の給与からの源泉徴収額は当然未確定だが、safe harbor入りのために必要な徴収額は州所得税の金額そのものなので、今回計算する見積額にしておけばいいだろう(実際にはそれより多めに源泉徴収されることになるだろうからもう少し増やせるはずではあるが)。
  • State Disability Insurance (SDI)保険料。FTB資料によれば今年は最大で$906.68。対象所得の上限があるので、最大値と思っていいだろう。
  • Personal exemption。Federalで一人あたり$4450、Californiaで$109。AMTやphase outの影響あり。
  • 州所得税用の州のstandard deduction。2015年分しか発表されていないが、それだとsingle $4044、married jointly $8088。
  • Foreign Tax Credit。日本の金融資産や、アメリカ外に投資しているファンドなどで徴収される税金の総額。これも事前に精密な予測はできないが、毎年そう大きくは変わらないし、全体の額からすれば比較的小さいので、これは気にしないことにする(源泉徴収のされ過ぎに繋がるという点では最善ではないが、safe harbor入りという目的の点では問題はない)。

税率

通常のfederal income taxについては、IRSのページでは2016年分の税率をまとめた資料は見当たらなかった。ただし、見やすい形にまとめた民間のページがいろいろある。たとえばこれ

Californiaの州所得税の2016年税率はまだ公表されていないようだ。2015年分の資料の記述からすると、6月末までの物価変動によって決定するような感じなので、発表は7月以降なのかもしれない。したがって、この記事(および筆者の現時点での見積もり)では概ね2015年用の数字を用いている。

その他の細かい調整

税金の精密な見積もりのためには、例外的な細かい制度のことも計算に入れる必要がある。筆者の状況でとくに注意が必要なのは相対的な高額所得者からより税金を奪い取るための諸制度である。筆者の場合、去年のような臨時ボーナス的収入でもない限りはこれらがすべて課せられることはなさそうではあるのだが、たとえば勤め先の株価が超急上昇して塩漬け状態のストックオプションを行使するなどという可能性もゼロとは言えないだろうから、考慮しておくのにこしたことはないだろう。

Federal itemized deductionのphase out

AGIが一定額(singleで$25万9400、married jointlyで$31万1300)を超えるとitemized deductionの一部(筆者にとくに関係するところでは徴収済み州税など)が減額される。詳しい減額方法はIRS Pub 17参照。

Federal personal exemptionのphase out

同様に、AGIが上記の額を超えるとpersonal exemptionが減額される。減額方法についてはこれも詳しくはIRS Pub 17参照。

California exemptionのphase out

FTBの資料参照(注: 2016年分が発表されていないので2015年用の数字)。連邦のAGIが一定額(single $17万8706、married jointly $35万7417)を超えると、超過後の$2500ごとにそれぞれ$6,$12減額される(singleの場合で、AGI $22万4123からゼロになる)。

Net Investment Income Tax (NIIT)

IRSのFAQ参照。Modified AGI(MAGI)が一定額(singleで$20万、married jointlyで$25万)を超えた場合、超えた部分の中で”investment income”に該当する所得(筆者の場合は上記の「運用資産からの所得」が該当)について追加で3.8%の連邦所得税がかかる。ここでいう”modified”はアメリカ外で働いている場合の給与の控除関連のようなので、通常は単なるAGIと同じ値になると思われる。NIITはordinary income扱いとなる投資所得、たとえば銀行の利子などにも適用されることに注意。したがってたとえばtax bracketが33%の人の場合、この類いの投資所得には36.8%で課税されることになってしまう。また、上でリンクしたIRSのFAQによれば、このMAGI限度額はインフレで調整されないそうだ(ちなみにphase out類には毎年インフレに応じた見直しがある)。仮に経済が順調に成長して徐々に物価と給料(もちろん投資所得の額も)が上がってくると、その分NIITに引っかかる人や割合が増えてしまうということになる。とんでもない制度である…。

Additional Medicare Tax

IRS資料参照。Medicare対象の給与(Medicare wages)が一定額(NIITと同じでsingleで$20万、married jointlyで$25万)を超えた場合、超えた額について0.9%の税率で余分に課税される。ただし、この税金は、給与が$20万を超えた時点で源泉徴収されることになっているため、safe harborを目指すというこの記事の観点からはあまり関係ない(Medicare wagesにはESPPの給与部分は含まれないので、筆者の場合であれば源泉徴収ですべて完了する)。なお、この境界がインフレ調整されるのかどうかはIRS資料からではわからなかった。

Alternative Minimum Tax (AMT)

AMTについては以前のblog記事でもまとめている。筆者の場合でいえば、おおざっぱには結局AGI(徴収済み州税が大部分の項目別控除とpersonal exemptionを差し引く前の所得)からAMT用のexemptionを差し引いて税率をかけた値を出し、それと通常方式の税金を比べて高い方を払う、ということになる。IRSの2016年用資料によれば、AMTのexemptionは満額で$5万3900、AMT対象所得が$11万9700を超えると、超過分$4につきexemptionが$1減額される(married jointlyの場合はそれぞれ$8万3800、$15万9700)。AMTは26%と28%の二段階の超過累進課税になっている。対象所得$18万6300を超える分が28%で課税される。

なお、ここでの本題からは外れるが、exemptionの減額によって、優遇税率が適用されるqualified dividendや長期キャピタルゲインのような所得の税率が実質的に上がっていることになる。たとえば給与所得がほとんどの人が$1000の長期キャピタルゲインも得ていたとする。この$1000にはAMTのシステムでも通常方法と同じ優遇税率が適用され、多くの場合にその税率は15%になる。しかし、この$1000全体がexemptionの減額対象になっていたとすると、exemptionはそれによって$250減らされる。これにAMTの通常税率を適用したものが実質的にこのキャピタルゲインへの税金の一部となるので、その税率を28%とすれば0.25 * 28%で7%増しの22%が実質的な税率となる。これにさらにNIITまで適用されると税率は25.8%にまで上がり、ほとんどordinary incomeへの課税並になってしまう。

Safe Harborへ出発

以上の準備ができれば、かなり精密な2016年分税金の見積もりが可能、なはずである。筆者は、これらの準備に基づいて、safe harborへの到達を助けるスプレッドシートを作成した。このスプレッドシートに所得や控除の見込額を入力すると、その他の条件から予想税金額が計算されるようになっている。また、現時点で給与から源泉徴収されている額の合計(給与明細に記載されている)と自主的に増やした源泉徴収額(あれば)、現在の月数を入力すると、年末時点で源泉徴収額が予想税金額に達するためにはさらにいくら源泉徴収を増やす必要があるかも計算される。

とりあえず、4月末の時点での見込みに基づいて源泉徴収額を増やす手配は完了した。今後はこのスプレッドシートを毎月更新し、ボーナス等の未確定な所得は確定次第訂正して見積もりをより精密化するとともに、safe harborに向けての進捗状況を確認して必要に応じて源泉徴収額をさらに調整していく予定である。

見落としている所得項目や、所得の見積もりが甘くて予想以上の所得になってしまう項目などもあると思うが、一方でボーナスやRSUで源泉徴収される分を敢えて考慮せずに見積もっているので、最終的には還付が(かなり)出るくらいの徴収過多になるだろうと予想している。見積もりがある程度正確だという仮定のもとで、源泉徴収額の調整は本当はもっと遅らせても間に合うはずではあり、お金の有効利用という観点ではそうすべきなのかもしれないが、あまりに最適化を目指して年末になって予想外の徴収不足で慌てるとか、はてはunderpayment penaltyになるとかいうことになっては本末転倒なので、余裕を持っていまから準備しておくことにする。

また、筆者の場合、年末近くになってどうしても徴収不足分が出そうという状況になった場合の最後の手段としては、12月中旬に来るはずのESPPのpurchase date後、年明けまで売却を遅らせるという技が残されている。こうすると、今年の給与扱いになって課税対象となる額を15%割引分までにとどめることができる。もちろん、それでも足りないという状況もあり得なくはないが、いまから準備しておけばそこまでのギャップが出る可能性はかなり低いのではないかと考えている。

というわけで、safe harborに向けての出航が完了した。無事たどり着けたかどうかは来年のtax returnで判明する。

コメント 2 件

  1. 税金見積もりツール大改訂&大公開 Says:

    […] 2018年になって、Federal Income Taxの大改変をはじめとする税金周りの変更が多数発生したのを機に、“safe harbor”入り(源泉徴収不足によるペナルティ回避のための徴収額調整)のためにこれまで使っていた見積もり用スプレッドシートを抜本改定することにした。その結果として、具体的な税率の値など、筆者個人の状況に依存する部分をほぼ排除できた(ただし州所得税はCalifornia限定)ので、ついでに一般向けのテンプレートも公開することにした。 […]

  2. AMTと州税還付による二重課税の罠 Says:

    […] このような場合、単純に1099-Gに記載された還付額を翌年の連邦所得税の申告時に所得として含めてしまうと、実際には受けていない控除の分にまで課税されることになり、その分には二重に課税されることになる…のではないかということに、今年の申告準備をしているときにふと気が付いた。筆者は昨年の申告ではじめてAMTに引っかかってしまったのだが、それまではphase outも含めて州所得税の源泉徴収額の控除を減額されたことがなく、こういう問題がありうるということにも考えが至っていなかったのである。昨年の場合は州税の還付はなかったので、今回はいずれにせよ問題にはならないのだが、今年もどうやらAMTには引っかかりそうであり、かつ州税の還付が出そうな状況である(筆者は基本的に政府への無利子貸付額をできる限り減らすように心がけているので、還付が出るのは稀なのだが、2016年分についてはsafe harbor入りのために余裕を持って源泉徴収を多めにしていたため、結局還付になりそうな見込みである)ため、来年の申告時には実際上の問題となる。 […]

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