Oct 24

アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)

アメリカの宗教右派 (中公新書ラクレ)
飯山 雅史
中央公論新社, 2008-09

Amazonランキング: 14387
Amazonおすすめ度: amazon rating 5.0

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一筋縄では理解できないアメリカの宗教右派を分かりやすく解説してくれる
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彼らは特殊な人々ではない
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非常に分かりやすいです

飯山雅史著「アメリカの宗教右派」(中公新書ラクレ)を読んだ。おもしろかった。いわゆる宗教右派を取り込んだことでBushの8年が実現してしまったということはよく言われるが、中絶(禁止)とか同性婚のような、(少なくとも日本人の感覚からすれば)直接自分の生活に関係ないような問題が、なぜ大統領選のような重大な選挙に影響を及ぼしうるのかということを常々不思議に思っていた。まして、まともに働いている人でさえちょっとした病気の医療費で破産にまで追い込まれることがあるほど破綻した医療保険制度とか、極端な金持ち優遇税制の一方で貧乏人は軍隊に召し上げられて戦地に送り込まれている現実とかいった、もっと身近で深刻な問題をはっきり抱えているのに、そうしたことが争点とならない一方で中絶や同性婚への態度で大統領が決まってしまうという事実は、まったく理解を超えるものだった。


この本では、その疑問に対するヒントになりそうな点として、「州や地域が決めるべき事項に連邦政府が口を出してきたこと」に対する反発が根っこにあることを歴史的な背景も含めて説明している。宗教的観点からBushに票を投じた人の多くにはそういう意識があったとは思えないが、州の独立性が日本の地方自治の感覚とは比較にならないくらい大事にされていることも含めて考えると、宗教が大統領選の論点になってしまうのも州単位での自治を求める大きな流れの一環だったとすれば少しは説明できそうな気もしてくる。

また、実は宗教右派が政治的に大きな影響力を振るっていたのは90年代半ばから04年の選挙くらいまでと意外に短い期間だったということもあまり認識できてなくて、新しい発見だった。たまたま、宗教右派の集票パワーが絶頂だったのがちょうどBush再選の時期と重なった(もちろんBush陣営がそうなるように立ち回ったということもあるだろうが)というのが、アメリカと、そして世界にとっての不運だったということか。

もう一つ興味深かったのは、宗教右派がBushをホワイトハウスに送り込み、再選までさせた結果として何よりも勝ち取りたかった政治目標(中絶や同姓婚の禁止を憲法に盛り込むこと)は実は達成されていないという指摘。確かに言われてみればその通りで、急進的な右派の意見ばかりを実現していてはさすがに政権が維持できないという配慮で政府側がうまく立ち回ったという著者の意見の通りだとすると、これだけぼろぼろのように見えるアメリカの政治でも一応民主主義の力が働いているということで、おもしろい。

一方で、これだけ大きなdynamismがあるアメリカの政治は、振り回される側としてはかなわないという面もあるだろうけど、いつまでも硬直したままの日本と比較するとそれなりに羨ましく感じるところもある。

それにしてもこの本、おもしろいとは思うが、タイトルからすると日本ではあまり売れなさそうだ…。実際、Amazonで見ても割合出たばっかりなのに在庫なしのようだ(といって売れ過ぎて在庫がないということではないだろう)。よく書けていて内容もおもしろいと思うだけにもったいない。

コメント 2 件

  1. murota Says:

    URLが amazon.comなのでエラーになります

  2. jinmei Says:

    ありゃ、ほんとですね。ご指摘ありがとうございます。直しました。

    あとついでに: Akismetがspam判定しててコメントに気付くのが遅れました。すみません。

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