Feb 02

一週間ほど前にこのタイトルの件で書いた「追記」のblog記事では、実は一つモヤモヤした部分が残っていた。金融機関が作成することになっているForm 1099-Bのinstructionの規定を、(金融機関が外国に存在するため)1099-Bが発行されない場合の一般の納税者に適用してもいいのかということである。状況からすれば適用できるはずと考えるのが自然だと思うが(アメリカ国内なら1099-Bの発行は義務だとはいえ、その有無によって譲渡益の計算およびその課税方法が異なるのは不自然だから)、やはり微妙な気持ち悪さは残る。そこで、もっときちんと調べて、より根本的と思われる資料を発見し、この理解でよさそうだということを確認した。ついでに、前回やはりやや曖昧だった「スポットレート」の定義についても、もう少し具体的な規定を発見した。以下はその調査内容の詳細である。

発見した資料はCode of Federal Regulations (CFR)1.988-2である。この(a)(2)(iv)に、米ドル以外の通貨建てで株式を売却した場合のbasisとproceedsをドル建てでどう計算するかが非常に明確に規定されている。すなわち、

  • Cash basisの納税者が市場で株式を売却した代金をnonfunctional通貨で受け取った場合、それを受渡日(settlement date)のスポットレートでfunctional通貨に換算した値をその株式の対価とする
  • Cash basisの納税者がnonfunctional通貨によって市場で株式を購入した場合、その対価であるbasisは、支払ったnonfunctional通貨の額を受渡日のスポットレートでfunctional通貨に換算した値とする

CFRのこの項の(C)にある例ではこのことがより具体的に説明されている。この資料を発見した後となってみると、1099-B instructionの記述もこのCFRが基になっているのだろうと想像できる。

なお、functional通貨というのは(マイナーな例外を除き)要するに米ドルのことである(IRS資料参照)。nonfunctional通貨の概念は明示的には定義されていないが、「functional通貨」以外の通貨と考えるのが自然だろう。また、cash basisの納税者という概念はIRS Pub 538で定義されていて(ただしここでは会計の手法で分類していて、cash methodという用語が使われている)、収入全般について受け取るごとに所得として算入する方式(を採用する納税者)のことで、普通の個人の場合は通常cash basisとなる。

ここで若干気になるのは、この方法によってfunctional通貨に換算した株式の譲渡損益をcapital gain/lossとみなしていいのかということである。上で参照したCFR 1.988-2(a)(2)(iv)(C)の例では、この譲渡益のことを単に”gain”と呼んでいて、これがcapital gainかordinary gainかについては明記していない。このCFRは全般に、”exchange gainまたはloss”(為替レートの変化から生じるgain/loss)についての規則で、これらは一般的にordinary gain/lossとして扱われる(CFR 1.988-3(a)参照)。この規則の中で触れられていることから、もしや外国通貨が株式の譲渡益もexchange(つまりordinary)gainとみなされるのではないかという不安も湧いてくる。

この不安を払拭してくれる直接の記述は、IRSの資料やIRC・CFRの中では見つけられなかったのだが、いろいろ調べてみた結果、筆者としては一応capital gain/lossと考えてよさそうという結論に達した(ただしこれは素人によるまったくの独自解釈であり、この記事の他の部分にも増して無保証である)。

まず、”exchange gain(loss)”はCFR 1.988-1(e)で以下のように定義されている:

The term “exchange gain or loss” means the amount of gain or loss realized as determined in § 1.988-2 with respect to a section 988 transaction.

ここに出てくる”section 988 transaction”はCFR 1.988-1(a)で定義されており、以下のいずれかである:

  • nonfunctional通貨の譲渡(disposition)
  • nonfunctional通貨建ての”debt instruments”の取得
  • その他通貨関連のデリバティブなど

Debt instrumentsというのは要するに債権のことだと考えればよいようだ。したがって、株式の売買は(nonfunctional通貨で決済するとしても)これらのいずれにも当てはまらないのでsection 988 transactionではなく、それによって発生した損益もexchange gain/lossではないと考えられる。

また、一般論として、株式は”capital asset”であり、その売却によって実現した損益はcapital gain/lossとなる(IRS Pub 17 Reporting Gains and Lossesの項参照)。売却の決済にnonfunctional通貨を用いる場合についてとくに例外規定がない(少なくともsection 988の中には)以上、この一般的な規定が適用されると考えてよさそうに思われる。

お上による公式な資料ではないが、関連する項目を検索して見つかるweb上の他の資料でも、この場合はcapital gain/lossだとして扱われている(たとえばこれとかこれ。ただし前者は検索ページ経由でないと全文を読むのに登録が必要な模様)。

また、前回のblog記事で「明記されていない」と書いたスポットレートについて、CFR 1.988-1(d)にはいくつかの具体例が示されている:

3番目があるので、たとえばOandaのような私企業が公表しているデータでも問題なさそうである。

ところで、このような「外貨」建ての株式売却による譲渡損益の計算方法はアメリカ独自というわけではないようだ。たとえば日本の国税庁通達にある租税特別措置法37条の10の8項目にこれに関する規定があり、約定日と受渡日の違いや通貨の換算レートの決め方などに細かい違いがあるものの、基本的な考え方は同じである。また、マネックス証券のページにはもう少しくだけた説明がある。

ということで、株式売却によるbasisとproceedsのドル換算方法とそれから決まるgain/lossの計算についてはだいぶすっきりしたのだが、この資料を読んでいるうちにさらにモヤモヤする部分に直面してしまった。それについては改めて書くことにする。

コメント 8 件

  1. ドル転に伴う課税 Says:

    […] 日本で発生したキャピタルゲインの税金処理: 追々記 Feb 02 […]

  2. CharlieB Says:

    初めまして。アメリカ在住の者です。神明さんのブログを拝見し、いろいろ参考・助けにさせていただいております。実は日本で長期所有している株式(米国株、日本株)を売却した場合、1099Bが証券会社から発行されない限り、アメリカのキャピタルゲインではなくOrdinary Incomeとして総合課税される、と税理士からきっぱり言われてしまいました。神明さんのブログですと、1099Bが発行されなくてもキャピタルゲインの優遇税制が受けられると理解しましたが、正しいでしょうか?リンクされているIRSのサイトにも1099Bがないと認めない、とは書いていないようですね。ご存じの範囲で結構ですので、教えていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

  3. Jinmei Tatuya Says:

    まず、1099-Bが発行されていないというだけの理由で譲渡益がキャピタルゲイン扱いにならない、ということはないはずです。譲渡損益の報告に使うForm 8949には「1099-Bで報告されていない取引」という分類がありますが、「1099-B未発行=キャピタルゲイン(ロス)でない」が本当なら、そもそもこの分類項目があるはずがないですよね。

    もし、1099-B未発行ということに加えて、外国の(市場で売買した外国の)株式だという条件が加わることによって一般的にキャピタルゲインとみなされなくなる、という主張なのだとすると、私自身はそれに該当する税制上の根拠は思い当たりません。Passive Foreign Investment Company(PFIC)という特殊な種類の企業だとみなされる場合は譲渡益をキャピタルゲイン扱いできなくなりますが、普通の事業会社であればPFIC扱いとなることはかなり考えずらく、この例外が適用されることはごく稀だと思います。また、PFICの場合にキャピタルゲイン扱いできなくなるという例外がわざわざ規定されているということから、逆にそれ以外の一般の場合はキャピタルゲインとして扱えると考えるのが自然でしょう。

    一般的には私のような素人よりプロの税理士の方がより詳しく正確な知識を持っているでしょうから、上記がまったく的外れということも大いにあり得ます。一方、プロも結構間違えていることがあるので、ordinary income扱いとなる具体的根拠としてIRS発行の文献や法律のセクション番号などを要求してみたらいいのではないでしょうか。誠実なプロならそれにきちんと答えてくれると思いますし、もし向こうが間違っていた場合はそこで自ら間違いを認めるでしょう。逆に示された根拠からordinary incomeになることに納得できるのならそれはそれで結構なことです(金銭的には残念な結論になりますが)。もし、こうした質問にきちんと答えてくれない人なら、おそらくクビにしてもっといい人を探すのがよいということだと思います。

  4. CharlieB Says:

    早々のご返信、ありがとうございました。もう一度税理士にチャレンジしてみます。実は、同税理士からはQualified Dividendについても日本で持っている株式には適用しない、と言われました。これは1099フォーム云々より、今のアメリカの税制では、キャピタルゲイン以外はすべてOrdinary Incomeの扱いになる、と言われました。つまりアメリカで持っている株式配当についてもそうである、と。少なくともアメリカで持っている株式配当などは長期保有であればQualified Incomeとして優遇税率が適用されると思っていたのですが、違いますでしょうか?政権が替わると税制も替るのは理解できますが。

  5. Jinmei Tatuya Says:

    いくつかの話が混ざっているようですが、まず、qualified dividendに対する優遇税率は私の知る限りまだ有効はなずです。ただし、数年前から高所得者層に対しては少し増税になっています。

    長期保有している外国の会社の株式からの配当についてqualified dividend扱いにできるかという点については、その会社が”qualified foreign corporation”であればできるというのが私の理解です。詳しくはIRS Pub 17 chapter 8(https://www.irs.gov/publications/p17/ch08.html)をご覧ください。日本の普通の事業会社の場合は通常はqualified foreign corporationとみなされるのではないかと思います。なお、先のコメントにも書いたPFICだとみなされる場合はqualified dividend扱いはできません。

    その税理士さんには、Pub 17の記述はなぜお手持ちの日本の株式に当てはまらないのか、またqualified dividendに優遇税率が適用されることはPub 17に明記されているが、それが「今のアメリカの税制」において具体的にどのような法律等が根拠で否定されるのか聞いたらよいのではないかと思います。

  6. CharlieB Says:

    ご返信ありがとうございました。税理士には日本・およびアメリカでのキャピタルゲインおよびQualified Dividendについて聞いてみます。立ち入ったことを伺いますが、神明さんも日本の株式を処分なさった経緯がブログにかかれていますが、その際は、アメリカのみで確定申告されているようですが、その株式は長期保有でアメリカでのキャピタルゲインの優遇税率が適用になられましたか?その際は1099フォームに替る証明書を根拠に申告されたのでしょうか?しつこくて申し訳ありませんが、お答えいただける範囲で結構です。

  7. Jinmei Tatuya Says:

    まず最初に、(1099-Bのない)売却損益の報告は私も今回(2015年分)がはじめてですので、何か私が根本的に勘違いをしていてそのことをIRSから指摘されるとしても、それは当分先だと思われます。したがって、私の事例を根拠として同様にすればよいはずとはお考えにならないようにお願いします。

    その上で、ご参考までに書きますと、長期保有分についてはlong-term capital gain/lossとして報告しています。より正確には、証券会社発行の資料から売買の金額や日付を確認し、その内容を1099-B未発行の取引として税金申告用のソフト(私の場合はtaxact)でForm 8949作成のための情報として入力しています。long-term capital gain/lossとすることなどの判断は実際には入力した情報からtaxactが勝手にやっています。

  8. CharlieB Says:

    状況はわかりました。このまま大過なく済んでくれればいいですね。私も税理士になぜ1099フォームがないといけないのかたずねてみます。かなり確信を持って返事していましたので、実績として認められなかった事例があるのかもしれません。しつこい質問にもご対応いただき、本当にありがとうございました。

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